あなたは油についてどのようなイメージをお持ちですか?健康によくない、ダイエットに逆効果など、あまり良くないイメージを思い浮かべるかもしれません。
ところが実は、脳と体の働きを最適化する大きなポイントとなる栄養が油です。人間の脳や体は半分以上が油でできており、やみくもに食事から油を減らすことは健康にとってマイナスになりかねません。それどころか、油は脳や体の状態を調整する重要な役割を担っています。
このセクションでは、脳と体の働きを最適化する方法の一つとして、油の役割と正しい摂り方を取り上げます。なお途中の説明では聞き慣れない用語も出てくると思いますが、用語を覚えることが目的ではありませんので、その点はあまり気に留めず楽に読み進めてください。
1.脳と体の質を変える油
冒頭でも少し触れましたが、脳の約60%、体の約50%は油でできています(水分を除く)。さらに油は脳や体をコントロールする役割もあります。まず油の役割について詳しくみていきましょう。
1-1.脳の機能に直接影響する油
油を摂ると140億個あるといわれる脳神経へ運ばれて、脳神経の周りにある膜に入り込みます。下図の黄色の部分です。
この黄色の部分の油は、必要に応じて脳神経の調整物質の原料にもなります。局所ホルモンやプロスタグランジンと呼ばれる物質で、脳神経や精神、気分といった脳の機能に直接影響しています。
1-2.全身の細胞を保護し調整物質にもなる油
また油は脳だけでなく、全身の機能にも大きく影響します。人間の体は37兆個ともいわれる細胞によりできていますが、一つひとつの細胞を保護する細胞膜は油でできています。この細胞膜が劣化すると、細胞が十分に保護されないどころか害をもたらし、さまざまな健康トラブルの原因になってしまいます。
さらに油が原料となって作られる局所ホルモンは、脳だけでなく全身の細胞機能を調整する役割も担っています。
1-3.脳や体は油によりコントロールされている
ですから油というとつい”高カロリーのエネルギー源”とだけ思われがちですが、実は体を健康に保つための調整物質の原料として重要な役割を担っているということです。つまり油の選び方次第で、脳神経機能や細胞機能を調整する物質のバランスが変わり、神経や精神、気分、体調、免疫、アレルギー、血流を変化させ、コースクリエーターのパフォーマンスにも大きな影響を与えてしまうのです。
油についてあまり良くないイメージを持っていた方も、油の重要性をお分かりいただけたのではないでしょうか。
では実際にどんな油を摂ればいいのでしょうか。実は現代の食生活では油の選び方にもリスクが潜んでいますので、次章で詳しく解説しましょう。
2.最適な油の選び方
油は神経や精神、気分、体調、免疫、アレルギー、血流などを調整する物質の原料になります。そしてその種類によって作られる調整物質の種類も変わり、体にもたらす作用が異なります。ここでは油の種類ごとにその特性をみていきましょう。
2-1.タイプが異なる4種類の油
油は脂肪酸とグリセリンという物質が結合してできています。含まれる脂肪酸の種類によって油は主に4系統に分けることができます。
上の図では左から硬い順にバターやラード、オリーブ油、サラダ油、青魚(EPA・DHA)が並んでいます。バターやラードは常温では固形、オリーブ油はややどろっとしており、サラダ油や青魚の油は食感もサラサラしています。
これらの油は、含まれる脂肪酸がそれぞれ飽和脂肪酸、オメガ9系、オメガ6系、オメガ3系で、脳や体をコントロールする効果も大きく異なります。
特にこの中でオメガ6系のサラダ油とオメガ3系の青魚はサラサラした部類の油ですが、効果はアクセルとブレーキに例えられるほど相反しています。この2種類の油の効果を詳しくみてみましょう。
2-2.ブレーキのようなオメガ3系の油
青魚などに含まれるオメガ3系は、ブレーキのように体を穏やかに働かせる作用があります。具体的には
- 血行を良くする
- 生活習慣病の原因になる血管の炎症を抑える
- 腸内環境や免疫も整えてくれる
といった、現代人の救世主ともいえるような重要な効果をもたらしてくれます。
また学習や集中力、落ち着きに影響する脳神経にもいい効果があることが研究※で分かってきています。
※「脳を襲う油脂(あぶら)」第105回日本精神神経学会総会資料より
2-3.アクセルのようなオメガ6系の油
これに対してサラダ油などに含まれるオメガ6系の脂肪酸は、アクセルのように炎症やアレルギー症状を促進する作用があります。具体的には
- 血行を抑制する
- 血管を硬化させる
- 炎症を促進し血栓をつくる
- アレルギー症状を亢進する
といったものです。どれも体に悪いものばかりのようにみえますが、けがなどによる出血を止める、体内に入ったホコリなどの異物をアレルギー反応により外に出すといった必要な働きでもあります。
2-4.現代の食生活の問題点
ただ現代の食生活では、手軽に使えるサラダ油を過剰に摂取しがちということが問題です。家庭でサラダ油を主に使いますし、外食での揚げ物や炒め物、ドレッシングやお菓子など加工食品にもサラダ油が多く使われているからです。
アクセルのような働きがあるオメガ6系の油とブレーキのような働きがあるオメガ3系の油は、バランスよく摂取するのが理想的です。でも現代食ではオメガ6系の油ばかり多くバランスを欠いてしまっていることが大きな問題です。その結果、動脈硬化などの生活習慣病やアレルギーが増えていると考えられます。
では、具体的にどのように食生活を改善すればいいのでしょうか。次の章で詳しくお話しします。
3.増やしたい油、減らしたい油
脂肪酸のバランスが悪くなってしまいがちな現代の食生活。改善策はサラダ油を減らし、青魚などのEPAやDHAを増やすことですが、もう少し具体的に油の選び方を説明しましょう。
3-1.できるだけ青魚を食べる
血行をよくすることで脳の働きも良くするEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は是非とも食生活に取り入れたい油です。できれば1日に1食は新鮮な青魚を食べるのが理想的です。ただ青魚でも大型の魚は水銀やカドミウムなどの有害な金属を蓄積しているので、小型のアジやサバがお勧めです。毎日青魚を食べるのが難しいのであれば、2日に1食といった具合でも構いません。
3-2.アマニ油やサプリメントで補給する
青魚を毎日食べるのが難しい場合は、同じオメガ3系の油であるアマニ油を使うのもお勧めです。ただどちらも酸化しやすいため、冷蔵庫に保管して早めに使い切る必要があります。加熱には向かないので、ドレッシングのように料理にふりかけて使うといいでしょう。
またEPAやDHAのサプリメントもお勧めです。安い商品もありますが、信頼できるブランドで上質なものを選びましょう。真空の状態で油を抽出したものや、カプセル入りで酸化を防いだものだと安心です。
以前我が家で飼っていた柴犬の痴呆が進んだので、上質なEPAのサプリメントを与えたことがあります。するとひどかった夜鳴きがなくなり、落ち着いてくれたことがありました。このようにEPAやDHAは脳の働きに影響するので、是非取り入れていただきたいと思います。
3-3.サラダ油やバターの代わりに良質なオリーブ油を使う
外食産業ではコストを下げるためにではどうしてもサラダ油をメインに使っていますし、ご家庭でもサラダ油を使われているところも多いのではないでしょうか。外食は止むを得ないとしても、まずはご家庭で使う油をサラダ油から良質なオリーブ油に変えてみることをお勧めします。
またバターも摂り過ぎると血行が悪くなってしまいます。バターはたまに使う程度にして、少しずつオリーブ油に置き換えたほうがよいでしょう。
オリーブ油はバターの代わりにパンに塗ってもいいですし、物足りないと感じられるようなら、少し塩を加えるとバターのような感じになります。またバルサミコや醤油、酢などで味付けしてドレッシングとして使うのもお勧めです。
ここまで具体的な油の選び方を解説しましたが、すぐに全部を実践するのは難しいでしょう。まずは自分に合う良質なオリーブ油を探してみて、サラダ油の摂取量を全体で半分に減らすことを目標にしてみるのはいかがでしょうか。また青魚を毎日食べたいところですが、難しければサプリメントを試してみるのがよいでしょう。
大事なことは無理なく続けるパターンを作ることです。最終的な目標の半分であっても、脳と体が変わっていくことは実感できるはずです。それがモチベーションとなってさらによい油に置き換えていくことを目指してください。
4.とってはいけない2つの油
ここまで脳と体の働きを最適化する油の選び方についてお話ししてきましたが、健康を害するリスクのある油についても触れておきましょう。この記事で食生活の改善に関する意欲が高まった機会に、生活習慣病を防ぐ食生活にも取り組んでいただきたいと思います。
4-1.酸化した油
避けていただきたい油の一つは酸化した油です。同じ油で繰り返し揚げ物をつくると酸化が進み、毒性の高い油になります。これが全身の細胞に取り込まれて体全体の老化をすすめます。
サラダ油は揚げ物にもよく使われますが、酸化しやすい油なので、ご家庭で揚げ物をつくる場合は常に新鮮なサラダ油を使うか、ラードのように酸化しにくい油を使ってください。
レストランや総菜屋で調理される揚げ物やスナック菓子は、安いサラダ油を繰り返し使うので酸化した油になっていると考えたほうがいいでしょう。ですから外食する場合はできるだけ揚げ物を避けるようにしてください。
4-2.トランス型脂肪酸
避けるべき油2つ目はトランス型脂肪酸です。これはサラダ油などのサラサラした植物油を半固形状にするために人工的につくられるマーガリンやショートニングなどに含まれる油です。またクッキーやケーキなどのお菓子や調理パンにも多く含まれています。トランス脂肪酸は栄養としても価値がないだけでなく、摂り過ぎると健康を害するリスクが高まります。
世界保健機関(WHO)もトランス型脂肪酸と生活習慣病の関連性を指摘しており、トランス脂肪酸の摂取量を抑えるための取り組みを各国に呼び掛けています※。成分表に「トランス脂肪酸」とか「マーガリン」と表示してある食品はできるだけ避けてください。
これらの有害な油を食べると全身の細胞や脳神経に運ばれて、細胞の健康と調整機能に悪影響をもたらし、全身のパフォーマンスが落ちるだけではなく、ガンや動脈硬化、老化の原因になります。これらは今日からすぐに摂るのを止める、あるいは極力減らすようにしてください。
今回のセクションでは、脳と体の材質を最適化するポイントになる栄養の一つとして、油についてお話ししました。次回は二つ目のポイントとしてタンパク質について解説します。